わたくしもそっちをすかして見てよろよろして眼をこすりました。そこには何の木か七八本の木がじぶんのからだからひとりで光でも出すように青くかがやいて、そこらの空もぼんやり明るくなっているのでした。
「ファゼーロかい。」いきなり向うから声がしました。
「ああ、来たよ。やっているかい。」
「やってるよ。とてもにぎやかなんだ。山猫博士も来ているようだぜ。」
「山猫博士?」ファゼーロはぎくっとしたようでした。
「けれどもいっしょに行こう。ポラーノの広場は誰だって見附けた人は行っていいんだから。」
「よし行こう。」ファゼーロははっきり云いました。
わたくしどもはそのあかりをめあてにあるいて行きました。
ミーロもファゼーロも何か大へん心配なようでした。さっぱり物も云わなくなってしまったのです。そうなるとこんどはわたくしが元気がついて来ました。一体昔ばなしの通りのことが本当にあるのだろうか、それとも何かほかのことだろうか、山猫博士がここへ来て何をしているのだろうか。もうどうしても行って見たくてたまらなくなりました。殊にその日はわたくしはまだ俸給の残りを半分以上もっていましたし、もしお金を払わなければ
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