|別当《べっとう》だの町の乾物屋のおやじだの、あやしいと思っていたんだ。このごろはいつでも酔っているんだ、きっとあいつらがポラーノの広場を知ってるぜ。それにおれは野原でおかしな風に枯草を積んだ荷馬車に何べんもあってるんだ。ファゼーロ、お前ね、なんにも知らないふりして今夜はうちへ帰って寝ろ。おれはきっと五六日のうちにポラーノの広場をさがすから。」
「そうかい。ぼくにはよくわからないなあ。」
そのときまた声がしました。
「ファゼーロ、おいで。お使いに町へ行くんだって。」
「ああいま行くよ。ぼくは旦那のとこへまっすぐに行くんだが、おまえはひとりで競馬場へ帰れるかい。」
「帰れるとも、ここらはひるまならたびたび来るとこなんだ。じゃ、地図はあげるよ。」
「うん、ミーロへやってこう。ぼくひるは野原へ来るひまがないんだから。」
そのとき向うのつめくさの花と月のあかりのなかに、うつくしい娘が立っていました。ファゼーロが云いました。
「姉さん、この人だよ。ぼく地図をもらったよ。」
その娘はこっちへ出てこないで、だまっておじぎをしました。わたくしもだまっておじぎをしました。
「じゃ、さよなら、早く行
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