そんなポラーノの広場はねえよ。」
「そんならどんなんがあるんだい。」
「もっといいのがあるよ。」
「どんなんだい。」
「まあ、お前たちには用がなかろうぜ。」じいさんはのどをくびっと鳴らしました。
「じいさんはしじゅう行くかい。」
「行かねえ訳でもねえよ、いいとこだからなあ。」
「じいさんは今夜は酔ってるねえ。」
「ああ上等の藁酒をやったからな。」じいさんはまたのどをくびっと鳴らしました。
「ぼくたちは行けないだろうかねえ。」
「行けねえよ、あっいけねえ、とうとう悪魔にやられた。」じいさんは額《ひたい》を押えてよろよろしました。甲《かぶと》むしが飛んで来て、ぶっつかったようすでした。
 ミーロが云いました。
「じいさん、ポラーノの広場の方角を教えてくれたら、おいらあ、じいさんに悪魔の歌をうたってきかせるぜ。」
「縁起でもねえ、まあもっと這《は》いまわって見ねえ。」
 じいさんはぷりぷり怒ってぐんぐんつめ草の上をわたって南の方へ行ってしまいました。
「じいさん。お待ちよ。また馬を冷しに連れてってやるからさ。」ファゼーロが叫びましたが、じいさんはどんどん行ってしまいました。ミーロはしばらくだ
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