の方が北だよ。そう置いてごらん。」ファゼーロはおもての景色と合せて地図を床に置きました。
「そら、こっちが東でこっちが西さ。いまぼくらのいるのはここだよ。この円くなった競馬場のここのとこさ。」
「乾溜工場はどれだろう。」ミーロが云いました。
「乾溜工場って、この地図にはないね、こっちかしら。」
わたくしは別のをひろげました。
「ないなあ、いつごろからあるんだい。」
「去年からだよ。」
「それじゃないんだ。この地図はもっと前に測量したんだから。その工場はどんなとこにあるの。」
「ムラードの森のはずれだよ。」
「ああ、これかしら、何の木だい、楢《なら》か樺《かば》だらう。唐檜やサイプレスではないね。」
「楢と樺だよ。ああこれか。ぼくはねえ、どうも昨夜の音はここから聞えたと思うんだ。」
「行こう行こう、行って見よう。」ファゼーロはもう地図をもってはねあがりました。
「わたしも行っていいかい。」
「いいとも、ぼくそう云いたくていたんだ。」
「じゃわたしも行こう。ちょっと待って。」
わたくしは大急ぎで仕度をしました。どうせ月は出るけれども地図が見えないといけないと思って、ガラス函のちょうちん
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