の広場は  夜が明ける。」
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「さあぼくも歌うぞ。」
(原稿数行空白)
「さあ叫ぼう。あたらしいポラーノの広場のために。ばんざーい。」わたくしは帽子を高くふって叫びました。
「ばんざあい。」
 そして私たちはまっ黒な林を通りぬけて、さっきの柏《かしわ》の疎林《そりん》を通り古いポラーノの広場につきました。
 そこにはいつものはんのきが風にもまれるたびに青くひかっていました。
 わたくしどもの影はアセチレンの灯に黒く長くみだれる草の波のなかに落ちて、まるでわたくしどもは一人ずつ巨きな川を行く汽船のような気がしました。
 いつものところへ来てわたくしどもは別れました。そこにほんの小さなつめくさのあかりが一つまたともっていました。わたくしはそれを摘《つ》んで、えりにはさみました。
「それではさよなら。また行きますよ。」ファゼーロは云いながら、みんなといっしょに帽子をふりました。みんなも何か叫んだようでしたが、それはもう風にもって行かれてきこえませんでした。そしてわたくしもあるき、みんなも向うへ行って、その青い、風のなかのアセチレンの灯と黒い影がだんだん小さくなったのです。

 それからちょうど七年たったのです。ファゼーロたちの組合は、はじめはなかなかうまく行かなかったのでしたが、それでもどうにか面白く続けることができたのでした。
 私はそれから何べんも遊びに行ったり相談のあるたびに友だちにきいたりして、それから三年の後には、とうとうファゼーロたちは立派な一つの産業組合をつくり、ハムと皮類と醋酸とオートミールはモリーオの市やセンダードの市はもちろん、広くどこへも出るようになりました。そして私はその三年目、仕事の都合でとうとうモリーオの市を去るようになり、わたくしはそれから大学の副手にもなりましたし農事試験場の技手もしました。そして昨日この友だちのない、にぎやかながら荒《す》さんだトキーオの市のはげしい輪転機の音のとなりの室で、わたくしの受持ちになる五十行の欄に、なにかものめずらしい博物の出来事をうずめながら一通の郵便を受けとりました。
 それは一つの厚い紙へ刷ってみんなで手に持って歌えるようにした楽譜でした。それには歌がついていました。

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 ポラーノの広場のうた
つめくさ灯ともす 夜のひろば
むかしのラルゴを うたいかわし

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