か。おれが相手になってやろう。」
「へん、貴さまの出る幕じゃない。引っこんでいろ。こいつが我輩、名誉ある県会議員を侮辱《ぶじょく》した。だから我輩はこいつへ決闘を申し込んだのだ。」
「いや、貴さまがおれの悪口を言ったのだ。おれはきさまに決闘を申し込むのだ、全体きさまはさっきから見ていると、さもきさま一人の野原のように威張り返っている。さあ、ピストルか刀かどっちかを撰べ。」
するとデストゥパーゴはいきなり酒をがぶっと呑みました。
ああファゼーロで大丈夫だ。こいつはよほど弱いんだ。
わたくしは心のなかで、そっとわらいました。
はたしてデストゥパーゴは空っぽな声でどなりだしました。
「黙れっ。きさまは決闘の法式も知らんな。」
「よし。酒を呑まなけぁ物をいえないような、そんな卑怯なやつの相手は子どもでたくさんだ。おいファゼーロしっかりやれ。こんなやつは野原の松毛虫だ。おれがうしろで見ているから、めちゃくちゃにぶん撲《なぐ》ってしまえ。」
「よし、おい、誰かおれの介添《かいぞえ》人になれ。」
そのときさっきの夏フロックが出てきました。
「まあ、まあ、あんな子供をあんたが相手になさることはありません。今夜は大切の場合なのですから、どうか。」
すると山猫博士はいきなりその男を撲りつけました。
「やかましい。そんなことはわかっている。黙って居れ。おい誰かおれの介添をしろ。テーモ。」
「はい。どうぞ、おゆるしを。あとでわたくしがよく仕置きいたします。」
「やかましい。おい、クローノ、きさまやれ。」
クローノと呼ばれた百姓らしい男が、
「さあ、おいらじゃあね。」と云ってみんなのうしろへ引っ込んでしまいました。
「臆病者、おいポーショ、きさまやれ。」
「おいらあとてもだめだよ。」
デストゥパーゴはいよいよ怒ってしまいました。
「よし介添人などいらない。さあ仕度しろ。」
「きさまも早く仕度しろ。」わたくしはファゼーロに上着をぬがせながら云いました。
「剣でも大砲でもすきなものを持ってこいよ。」
「どっちでもきさまのすきな方にしろ。」どこにそんなものがあるんだい、と思いながらわたくしは云いました。
「よし、おい給仕、剣を二本持ってこい。」
すると給仕が待っていたように云いました。
「こんな野原で剣はございません。ナイフでいけませんか。」
するとデストゥパーゴは安心したよう
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