おれも大三だ。そのすきとほったばらの実を、おれが拵《こさ》へて見せよう。おい、みんなばらの実を十貫目ばかり取って呉《く》れ。」
 そこで大三は、その十貫目のばらの実を持って、おうちへ帰って参りました。
 それからにせ金《がね》製造場へ自分で降りて行って、ばらの実をるつぼに入れました。それからすきとほらせる為に、ガラスのかけらと水銀と塩酸を入れて、ブウブウとふいごにかけ、まっ赤に灼《や》きました。そしたらどうです。るつぼの中にすきとほったものが出来てゐました。大三はよろこんでそれを呑《の》みました。するとアプッと云って死んでしまひました。それが丁度そのばんの八時半ごろ、るつぼの中にできたすきとほったものは、実は昇汞《しょうこう》といふいちばんひどい毒薬でした。



底本:「新修宮沢賢治全集 第八巻」筑摩書房
   1979(昭和54)年5月15日初版第1刷発行
   1984(昭和59)年1月30日初版第7刷発行
入力:林 幸雄
校正:久保格
2002年10月27日作成
2003年6月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング