いざう》といふものがありました。この人はからだがまるで象のやうにふとって、それににせ金使ひでしたから、にせ金ととりかへたほんたうのお金も沢山持ってゐましたし、それに誰《たれ》もにせ金使ひだといふことを知りませんでしたから、自分だけではまあこれが人間のさいはひといふものでおれといふものもずゐぶんえらいもんだと思って居ました。ところがたゞ一つ、どうもちかごろ頭がぼんやりしていけない息がはあはあ云って困るといふのでした。お医者たちはこれは少し喰べすぎですよ、も少しごちそうを少くさへなされば頭のぼんやりしたのもからだのだるいのもみんな直りますとかう云ふのでしたが、大三はいつでも、いゝやこれは何かからだに不足なものがある為《ため》なんだ、それだから、見ろ、むかしは脚気《かくけ》などでも米の中に毒があるためだから米さへ食はなけぁなほるって云ったもんだが今はどうだ、それはビタミンといふものがたべものの中に足りない為だとかう云ふんだらう、お前たちは医者ならそんなこと位知ってさうなもんだといふやうな工合《ぐあひ》に却《かへ》って逆にお医者さんをいぢめたりするのでした。
そしてしきりに、頭の工合のよくなって息のはあはあや、からだのだるいのが治ってそしてもっと物を沢山おいしくたべるやうな薬をさがしてゐましたがなかなか容易に見つかりませんでした。そこへ丁度この清夫のすきとほるばらの実のはなしを聞いたもんですからたまりません。早速人を百人ほど頼んで、林へさがしにやって参りました。それも折角さがしたやつを、すぐその人に呑《の》まれてしまっては困るといふので、暑いのを馬車に乗って、自分で林にやって参りました。それから林の入口で馬車を降りて、一足つめたい森の中にはひりますと、つぐみがすぐ飛んで来て、少し呆《あき》れたやうに言ひました。
「おや、おや、これは全体人だらうか象だらうかとにかくひどく肥《ふと》ったもんだ。一体何しに来たのだらう。」
大三は怒って、
「何だと、今に薬さへさがしたらこの森ぐらゐ焼っぷくってしまふぞ。」と云ひました。
その声を聞いてふくろふが木の洞《ほら》の中で太い声で云ひました。
「おや、おや、つひぞ聞いたこともない声だ。ふいごだらうか。人間だらうか。もしもふいごとすれば、ゴギノゴギオホン、銀をふくふいごだぞ。すてきに壁の厚いやつらしいぜ。」
さあ大三は自分の職業のことまで云はれたものですから、まっ赤になって頬《ほほ》をふくらせてどなりました。
「何だと。人をふいごだと。今に薬さへさがしてしまったらこの林ぐらゐ焼っぷくってしまふぞ。」と云ひました。
すると今度は、林の中の小さな水溜《みづたま》りの蘆《あし》の中に居たよしきりが、急いで云ひました。
「おやおやおや、これは一体大きな皮の袋だらうか、それともやっぱり人間だらうか、愕《おどろ》いたもんだねえ、愕いたもんだねえ。びっくりびっくり。くりくりくりくりくり。」
さあ大三はいよいよ怒って、
「何だと畜生。薬さへ取ってしまったらこの林ぐらゐ、くるくるん[#「ん」は小書き]に焼っぷくって見せるぞ。畜生。」
それから百人の人たちを連れて大三は森の空地に来ました。
「いゝか、さあ。さがせ。しっかりさがせ。」大三はまん中に立って云ひました。
みんなガサガサガサガサさがしましたが、どうしてもそんなものはありません。
空では雲が白鰻《しろうなぎ》のやうに光ったり、白豚のやうに這《は》ったりしてゐます。
大三は早くその薬をのんでからだがピンとなることばかり一生けん命考へながら、汗をポタポタ滴《た》らし息をはあはあついて待ってゐました。
みんなはガサガサガサガサやりますけれどもどうもなかなか見つかりません。
そのうちにもうお日さまは空のまん中までおいでになって、林はツーンツーンと鳴り出しました。あゝなるほど、脚気《かくけ》の木がビタミンをほしいよほしいよと云ってるわいと、大三は思ひました。それでもまだすきとほるばらの実はみつかりません。
かけすが、
「やあ象さん、もうおひるです。弁当おあがりなさい。落しますよ。そら。」
と云ひながら、栗《くり》の木の皮を一切れポタッと落して行きました。
「えい畜生。あとで鉄砲を持って来てぶっ放すぞ。」大三ははぎしりしてくやしがりました。
空では白鰻のやうな雲も、みんな飛んで行き、大三は汗をたらしました。まだ見つかりません。よしきりが林の向ふの沼の方に逃げながら、
「ふいごさん。ふいごさん。まだですか。まだですか。まだまだまだまぁだ。」
と云って通りました。
もう夕方になりました。そこでみんなはもうとてもだめだと思ってさがすのをやめてしまひました。大三もしばらくは困って立ってゐましたが、やがてポンと手を叩《たた》いて云ひました。
「ようし。
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