かえの極《きわ》みをも、野の百合《ゆり》の一つにくらべようとはしませんでした。それは、人のさかえをば、人のたくらむように、しばらくまことのちから、かぎりないいのちからはなしてみたのです。もしそのひかりの中でならば、人のおごりからあやしい雲と湧《わ》きのぼる、塵《ちり》の中のただ一抹《いちまつ》も、神《かみ》の子のほめたもうた、聖《せい》なる百合《ゆり》に劣《おと》るものではありません」
 「私を教えてください。私を連《つ》れて行ってください。私はどんなことでもいたします」
 「いいえ私はどこへも行きません。いつでもあなたのことを考えています。すべてまことのひかりのなかに、いっしょにすむ人は、いつでもいっしょに行くのです。いつまでもほろびるということはありません。けれども、あなたは、もう私を見ないでしょう。お日様《ひさま》があまり遠くなりました。もずが飛《と》び立ちます。私はあなたにお別《わか》れしなければなりません」
 停車場《ていしゃじょう》の方で、鋭《するど》い笛《ふえ》がピーと鳴りました。
 もずはみな、一ぺんに飛《と》び立って、気違《きちが》いになったばらばらの楽譜《がくふ》の
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