えたのです。
 ひなげしはみんなあっけにとられてぽかっとそらをながめています。
 ひのきがそこで云いました。
「もう一足でおまえたちみんな頭をばりばり食われるとこだった。」
「それだっていいじゃあないの。おせっかいのひのき」
 もうまっ黒に見えるひなげしどもはみんな怒《おこ》って云いました。
「そうじゃあないて。おまえたちが青いけし坊主《ぼうず》のまんまでがりがり食われてしまったらもう来年はここへは草が生えるだけ、それに第一スターになりたいなんておまえたち、スターて何だか知りもしない癖《くせ》に。スターというのはな、本当は天井《てんじょう》のお星さまのことなんだ。そらあすこへもうお出になっている。もすこしたてばそらいちめんにおでましだ。そうそうオールスターキャストというだろう。オールスターキャストというのがつまりそれだ。つまり双子《ふたご》星座様は双子星座様のところにレオーノ様はレオーノ様のところに、ちゃんと定《さだ》まった場所でめいめいのきまった光りようをなさるのがオールスターキャスト、な、ところがありがたいもんでスターになりたいなりたいと云っているおまえたちがそのままそっくりスターでな、おまけにオールスターキャストだということになってある。それはこうだ。聴《き》けよ。
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あめなる花をほしと云い
この世の星を花という。」
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「何を云ってるの。ばかひのき、けし坊主なんかになってあたしら生きていたくないわ。おまけにいまのおかしな声。悪魔のお方のとても足もとにもよりつけないわ。わあい、わあい、おせっかいの、おせっかいの、せい高ひのき」
 けしはやっぱり怒っています。
 けれども、もうその顔もみんなまっ黒に見えるのでした。それは雲の峯がみんな崩れて牛みたいな形になり、そらのあちこちに星がぴかぴかしだしたのです。
 ひなげしは、みな、しいんとして居《お》りました。
 ひのきは、まただまって、夕がたのそらを仰ぎました。
 西のそらは今はかがやきを納め、東の雲の峯はだんだん崩れて、そこからもう銀いろの一つ星もまたたき出しました。



底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
   1989(平成元)年6月15日発行
   1994(平成6)年6月5日13刷
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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