た。それから力いっぱい起きあがって楢夫を抱かうとしました。楢夫は消えたりともったりしきりにしてゐましたがだんだんそれが早くなりたうとうその変りもわからないやうになって一郎はしっかりと楢夫を抱いてゐました。
「楢夫、僕たちどこへ来たらうね。」一郎はまるで夢の中のやうに泣いて楢夫の頭をなでてやりながら云ひました。その声も自分が云ってゐるのか誰かの声を夢で聞いてゐるのかわからないやうでした。
「死んだんだ。」と楢夫は云ってまたはげしく泣きました。
 一郎は楢夫の足を見ました。やっぱりはだしでひどく傷がついて居りました。
「泣かなくってもいゝんだよ。」一郎は云ひながらあたりを見ました。ずうっと向ふにぼんやりした白びかりが見えるばかりしいんとしてなんにも聞えませんでした。
「あすこの明るいところまで行って見よう。きっとうちがあるから、お前あるけるかい。」
 一郎が云ひました。
「うん。おっかさんがそこに居るだろうか。」
「居るとも。きっと居る。行かう。」
 一郎はさきになってあるきました。そらが黄いろでぼんやりくらくていまにもそこから長い手が出て来さうでした。
 足がたまらなく痛みました。
「早
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