のこなもなんだかなまぬるくなり楢夫もそばに居なくなって一郎はたゞひとりぼんやりくらい藪《やぶ》のやうなところをあるいて居りました。
そこは黄色にぼやけて夜だか昼だか夕方かもわからずよもぎのやうなものがいっぱいに生えあちこちには黒いやぶらしいものがまるでいきもののやうにいきをしてゐるやうに思はれました。
一郎は自分のからだを見ました。そんなことが前からあったのか、いつかからだには鼠《ねずみ》いろのきれが一枚まきついてあるばかりおどろいて足を見ますと足ははだしになってゐて今までもよほど歩いて来たらしく深い傷がついて血がだらだら流れて居りました。それに胸や腹がひどく疲れて今にもからだが二つに折れさうに思はれました。一郎はにはかにこはくなって大声に泣きました。
けれどもそこはどこの国だったのでせう。ひっそりとして返事もなく空さへもなんだかがらんとして見れば見るほど変なおそろしい気がするのでした。それににはかに足が灼《や》くやうに傷《いた》んで来ました。
「楢夫は。」ふっと一郎は思ひ出しました。
「楢夫ぉ。」一郎はくらい黄色なそらに向って泣きながら叫びました。
しいんとして何の返事もあり
前へ
次へ
全38ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング