てそのまゝ泣いてゐたのです。一郎はすぐ走り戻ってだき起しました。そしてその手の雪をはらってやりそれから、
「さあも少しだ。歩げるが。」とたづねました。
「うん」と楢夫は云ってゐましたがその眼はなみだで一杯になりじっと向ふの方を見、口はゆがんで居りました。
雪がどんどん落ちて来ます。それに風が一そうはげしくなりました。二人は又走り出しましたけれどももうつまづくばかり一郎がころび楢夫がころびそれにいまはもう二人ともみちをあるいてるのかどうか前無かった黒い大きな岩がいきなり横の方に見えたりしました。
風がまたやって来ました。雪は塵《ちり》のやう砂のやうけむりのやう楢夫はひどくせき込んでしまひました。
そこはもうみちではなかったのです。二人は大きな黒い岩につきあたりました。
一郎はふりかへって見ました。二人の通って来たあとはまるで雪の中にほりのやうについてゐました。
「路まちがった。戻らなぃばわがなぃ。」
一郎は云っていきなり楢夫の手をとって走り出さうとしましたがもうたゞの一足ですぐ雪の中に倒れてしまひました。
楢夫はひどく泣きだしました。
「泣ぐな。雪はれるうぢ此処《こご》に居る
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