ひました。けれども二人の間にもこまかな雪がいっぱいに降ってゐました。
「馬もきっと坂半分ぐらゐ登ったな。叫んで見べが。」
「うん。」
「いゝが、一二三、ほおお。」
声がしんと空へ消えてしまひました。返事もなくこだまも来ずかへってそらが暗くなって雪がどんどん舞ひおりるばかりです。
「さあ、歩《あ》べ。あと三十分で下りるにい。」
一郎はまたあるきだしました。
にはかに空のほうでヒィウと鳴って風が来ました。雪はまるで粉のやうにけむりのやうに舞ひあがりくるしくて息もつかれずきもののすきまからはひやひやとからだにはひりました。兄弟は両手を顔にあてて立ちどまってゐましたがやっと風がすぎたので又あるき出さうとするときこんどは前より一そうひどく風がやって来ました。その音はおそろしい笛のやう、二人のからだも曲げられ足もとをさらさら雪の横にながれるのさへわかりました。
たうげのいたゞきはまったくさっき考へたのとはちがってゐたのです。楢夫はあんまりこゝろぼそくなって一郎にすがらうとしました。またうしろをふりかへっても見ました。けれども一郎は風がやむとすぐ歩き出しましたし、うしろはまるで暗く見えました
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