いてゐましたが、やつとあきらめて言ひました。
「それでは、文句はいままでのとほりにしませう。そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金《きん》のどんぐり一升と、塩鮭《しほざけ》のあたまと、どつちをおすきですか。」
「黄金《きん》のどんぐりがすきです。」
 山猫は、鮭《しやけ》の頭でなくて、まあよかつたといふやうに、口早に馬車別当に云ひました。
「どんぐりを一升早くもつてこい。一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」
 別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。
「ちやうど一升あります。」
 山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。そこで山ねこは、大きく延びあがつて、めをつぶつて、半分あくびをしながら言ひました。
「よし、はやく馬車のしたくをしろ。」白い大きなきのこでこしらへた馬車が、ひつぱりだされました。そしてなんだかねずみいろの、をかしな形の馬がついてゐます。
「さあ、おうちへお送りいたしませう。」山猫が言ひました。二人は馬車にのり別当は、どんぐりのますを馬車のなかに入れました。
 ひゆう、ぱちつ。
 馬車は草地をはなれました。木や藪《やぶ》がけむり
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