の、あのはしかをやんだ子が、まるっきりやせて青ざめて、泣《な》きだしそうな顔をして、新しい熊《くま》のおもちゃを持《も》って、きちんとすわっていたのです。
「ざしきぼっこだ」一人が叫んでにげだしました。みんなもわあっとにげました。ざしきぼっこは泣きました。
 こんなのがざしきぼっこです。

 また、北上《きたかみ》川の朗妙寺《ろうみょうじ》の淵《ふち》の渡《わた》し守《もり》が、ある日わたしに言いました。
「旧暦《きゅうれき》八月十七日の晩《ばん》、おらは酒《さけ》のんで早く寝《ね》た。おおい、おおいと向《む》こうで呼《よ》んだ。起《お》きて小屋《こや》から出てみたら、お月さまはちょうどそらのてっぺんだ。おらは急《いそ》いで舟《ふね》だして、向こうの岸《きし》に行ってみたらば、紋付《もんつき》を着《き》て刀《かたな》をさし、袴《はかま》をはいたきれいな子供《こども》だ。たった一人で、白緒《しろお》のぞうりもはいていた。渡《わた》るかと言《い》ったら、たのむと言《い》った。子どもは乗《の》った。舟《ふね》がまん中ごろに来たとき、おらは見ないふりしてよく子供を見た。きちんと膝《ひざ》に手を
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