た。
 けれども小猿は急にぶらぶらさせていた足をきちんとそろえておじぎをしました。そしていやに丁寧に云いました。
「楢夫さん。いや、どうか怒らないで下さい。私はいい所へお連れしようと思って、あなたのお年までお尋《たず》ねしたのです。どうです。おいでになりませんか。いやになったらすぐお帰りになったらいいでしょう。」
 家来の二疋の小猿も、一生けん命、眼《め》をパチパチさせて、楢夫を案内するようにまごころを見せましたので、楢夫も一寸《ちょっと》行って見たくなりました。なあに、いやになったら、すぐ帰るだけだ。
「うん。行ってもいい。しかしお前らはもう少し語《ことば》に気をつけないといかんぞ。」
 小猿の大将は、むやみに沢山《たくさん》うなずきながら、腰掛けの上に立ちあがりました。
 見ると、栗の木の三つのきのこの上に、三つの小さな入口ができていました。それから栗の木の根もとには、楢夫の入れる位の、四角な入口があります。小猿の大将は、自分の入口に一寸顔を入れて、それから振《ふ》り向いて、楢夫に申しました。
「只今《ただいま》、電燈を点《つ》けますからどうかそこからおはいり下さい。入口は少し狭《せも》うございますが、中は大へん楽でございます。」
 小猿は三疋、中にはいってしまい、それと一緒《いっしょ》に栗の木の中に、電燈がパッと点きました。
 楢夫は、入口から、急いで這《は》い込みました。
 栗の木なんて、まるで煙突《えんとつ》のようなものでした。十間置き位に、小さな電燈がついて、小さな小さなはしご段がまわりの壁《かべ》にそって、どこまでも上の方に、のぼって行くのでした。
「さあさあ、こちらへおいで下さい。」小猿はもうどんどん上へ昇《のぼ》って行きます。楢夫は一ぺんに、段を百ばかりずつ上って行きました。それでも、仲々、三疋には敵《かな》いません。
 楢夫はつかれて、はあはあしながら、云いました。
「ここはもう栗の木のてっぺんだろう。」
 猿が、一度にきゃっきゃっ笑いました。
「まあいいからついておいでなさい。」
 上を見ますと、電燈の列が、まっすぐにだんだん上って行って、しまいはもうあんまり小さく、一つ一つの灯《ひ》が見わかず、一本の細い赤い線のように見えました。
 小猿の大将は、楢夫の少し参った様子を見ていかにも意地の悪い顔をして又申しました。
「さあも少し急ぐのです。よう
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