り出した。と思ふと、まるで山つなみのやうな音がして、一ぺんに夕立がやって来た。風までひゅうひゅう吹きだした。淵《ふち》の水には、大きなぶちぶちがたくさんできて、水だか石だかわからなくなってしまった。河原にあがった子どもらは、着物をかかへて、みんなねむの木の下へ遁げこんだ。ぼくも木からおりて、しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]といっしょに、向ふの河原へ泳ぎだした。そのとき、あのねむの木の方かどこか、烈《はげ》しい雨のなかから、
「雨はざあざあ ざっこざっこ、
 風はしゅうしゅう しゅっこしゅっこ[#「しゅっこしゅっこ」に傍点]。」
といふやうに叫んだものがあった。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、泳ぎながら、まるであわてて、何かに足を引っぱられるやうにして遁げた。ぼくもじっさいこはかった。やうやく、みんなのゐるねむのはやしについたとき、しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]はがたがたふるへながら、
「いま叫《さか》んだのはおまへらだか。」ときいた。
「そでない、そでない。」みんなは一しょに叫んだ。ぺ吉がまた一人出て来て、
「そでない。」と云った。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、気味悪さうに
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