た。奇体だと思ってゐたら、また腹かけから、何か出した。
「発破だぞ、発破だぞ。」とぺ吉やみんな叫んだ。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、手をふってそれをとめた。庄助は、きせるの火を、しづかにそれへうつした。うしろに居た一人は、すぐ水に入って、網をかまへた。庄助は、まるで電車を運転するときのやうに落ちついて、立って一あし水にはひると、すぐその持ったものを、さいかちの木の下のところへ投げこんだ。するとまもなく、ぼぉといふやうなひどい音がして、水はむくっと盛りあがり、それからしばらく、そこらあたりがきぃんと鳴った。煉瓦場の人たちは、みんな水へ入った。
「さぁ、流れて来るぞ。みんなとれ。」としゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]が云った。まもなく、小指ぐらゐの茶いろなかじかが、横向きになって流れて来たので、取らうとしたら、うしろのはうで三郎が、まるで瓜《うり》をすするときのやうな声を出した。六寸ぐらゐある鮒《ふな》をとって、顔をまっ赤にしてよろこんでゐたのだった。
「だまってろ、だまってろ。」しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]が云った。
そのとき、向ふの白い河原を、肌ぬぎになったり、シャツだけ着たりした大人や子どもらが、たくさんかけて来た。そのうしろからは、ちゃうど活動写真のやうに、一人の網シャツを着た人が、はだか馬に乗って、まっしぐらに走って来た。みんな発破《はっぱ》の音を聞いて、見に来たのだ。
庄助《しゃうすけ》は、しばらく腕を組んで、みんなのとるのを見てゐたが、
「さっぱり居なぃな。」と云った。けれども、あんなにとれたらたくさんだ。煉瓦場《れんぐわば》の人たちなんか、三十|疋《ぴき》ぐらゐもとったんだから。ぼくらも、一疋か二疋なら誰《たれ》だって拾った。庄助は、だまって、また上流《かみ》へ歩きだした。煉瓦場の人たちもついて行った。網シャツの人は、馬に乗って、またかけて行ったし、子どもらは、ぼくらの仲間にはひらうと、岸に座って待ってゐた。
「発破かけだら、雑魚《ざこ》撒《ま》かせ。」三郎が、河原の砂っぱの上で、ぴょんぴょんはねながら、高く叫んだ。
ぼくらは、とった魚を、石で囲んで、小さな生洲《いけす》をこしらへて、生き返っても、もう遁《に》げて行かないやうにして、また石取りをはじめた。ほんたうに暑くなって、ねむの木もぐったり見えたし、空もまるで、底なしの淵《ふち》のやう
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