な》めながら、横目でじっと二人の通りすぎるのをみていました。殊《こと》に清作が通り過ぎるときは、ちょっとあざ笑いました。清作はどうも仕方ないというような気がしてだまって画かきについて行きました。
 ところがどうも、どの木も画かきには機嫌《きげん》のいい顔をしますが、清作にはいやな顔を見せるのでした。
 一本のごつごつした柏の木が、清作の通るとき、うすくらがりに、いきなり自分の脚をつき出して、つまずかせようとしましたが清作は、
「よっとしょ。」と云いながらそれをはね越《こ》えました。
 画かきは、
「どうかしたかい。」といってちょっとふり向きましたが、またすぐ向うを向いてどんどんあるいて行きました。
 ちょうどそのとき風が来ましたので、林中の柏の木はいっしょに、
「せらせらせら清作、せらせらせらばあ。」とうす気味のわるい声を出して清作をおどそうとしました。
 ところが清作は却《かえ》ってじぶんで口をすてきに大きくして横の方へまげて
「へらへらへら清作、へらへらへら、ばばあ。」とどなりつけましたので、柏の木はみんな度ぎもをぬかれてしいんとなってしまいました。画かきはあっはは、あっははとびっ
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