ょうのきものを つけなさる
 かしわばやしの よろこびは
 あなたのそらに かかるまま。」
 画かきがよろこんで手を叩きました。
「うまいうまい。よしよし。夏のおどりの第三夜。みんな順々にここに出て歌うんだ。じぶんの文句でじぶんのふしで歌うんだ。一等賞から九等《くとう》賞まではぼくが大きなメタルを書いて、明日《あした》枝《えだ》にぶらさげてやる。」
 清作もすっかり浮《う》かれて云いました。
「さあ来い。へたな方の一等から九等までは、あしたおれがスポンと切って、こわいとこへ連れてってやるぞ。」
 すると柏《かしわ》の木大王が怒りました。
「何を云うか。無礼者。」
「何が無礼だ。もう九本《くほん》切るだけは、とうに山主の藤助《とうすけ》に酒を買ってあるんだ。」
「そんならおれにはなぜ買わんか。」
「買ういわれがない。」
「いやある、沢山ある。」
「ない。」
 画かきが顔をしかめて手をせわしく振《ふ》って云いました。
「またはじまった。まあぼくがいいようにするから歌をはじめよう。だんだん星も出てきた。いいか、ぼくがうたうよ。賞品のうただよ。
 一とうしょうは 白金メタル
 二とうしょうは きんいろメタル
 三とうしょうは すいぎんメタル
 四とうしょうは ニッケルメタル
 五とうしょうは とたんのメタル
 六とうしょうは にせがねメタル
 七とうしょうは なまりのメタル
 八とうしょうは ぶりきのメタル
 九とうしょうは マッチのメタル
 十とうしょうから百とうしょうまで
 あるやらないやらわからぬメタル。」
 柏の木大王が機嫌を直してわははわははと笑いました。
 柏の木どもは大王を正面に大きな環《わ》をつくりました。
 お月さまは、いまちょうど、水いろの着ものと取りかえたところでしたから、そこらは浅い水の底のよう、木のかげはうすく網《あみ》になって地に落ちました。
 画かきは、赤いしゃっぽもゆらゆら燃えて見え、まっすぐに立って手帳をもち鉛筆《えんぴつ》をなめました。
「さあ、早くはじめるんだ。早いのは点がいいよ。」
 そこで小さな柏の木が、一本ひょいっと環のなかから飛びだして大王に礼をしました。
 月のあかりがぱっと青くなりました。
「おまえのうたは題はなんだ。」画かきは尤《もっと》もらしく顔をしかめて云いました。
「馬と兎《うさ》です。」
「よし、はじめ、」画かきは
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