七《しち》とうしやう、なまりのメタル。」
「わたしがあとをつけます。」さつきの木のとなりからすぐまた一本の柏の木がとびだしました。
「よろしい、はじめ。」
 かしはの木はちらつと清作の方を見て、ちよつとばかにするやうにわらひましたが、すぐまじめになつてうたひました。
「清作は、葡萄《ぶだう》をみんなしぼりあげ
 砂糖を入れて
 瓶《びん》にたくさんつめこんだ。
  おい、だれかあとをつゞけてくれ。」
「ホツホウ、ホツホウ、ホツホウ、」柏《かしは》の木どもは風のやうな変な声をだして清作をひやかしました。
 清作はもうとびだしてみんなかたつぱしからぶんなぐつてやりたくてむずむずしましたが、画《ゑ》かきがちやんと前に立ちふさがつてゐますので、どうしても出られませんでした。
「第八等、ぶりきのメタル。」
「わたしがつぎをやります。」さつきのとなりから、また一本の柏の木がとびだしました。
「よし、はじめつ。」
「清作が 納屋にしまつた葡萄酒《ぶだうしゆ》は
 順序たゞしく
 みんなはじけてなくなつた。」
「わつはつはつは、わつはつはつは、ホツホウ、ホツホウ、ホツホウ。がやがやがや……。」
「やかましい。きさまら、なんだつてひとの酒のことなどおぼえてやがるんだ。」清作が飛び出さうとしましたら、画かきにしつかりつかまりました。
「第|九《く》とうしやう。マツチのメタル。さあ、次だ、次だ、出るんだよ。どしどし出るんだ。」
 ところがみんなは、もうしんとしてしまつて、ひとりもでるものがありませんでした。
「これはいかん。でろ、でろ、みんなでないといかん。でろ。」画かきはどなりましたが、もうどうしても誰《たれ》も出ませんでした。
 仕方なく画かきは、
「こんどはメタルのうんといゝやつを出すぞ。早く出ろ。」と云ひましたら、柏の木どもははじめてざわつとしました。
 そのとき林の奥の方で、さらさらさらさら音がして、それから、
「のろづきおほん、のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎのおほん、
 おほん、おほん、」
とたくさんのふくろふどもが、お月さまのあかりに青じろくはねをひるがへしながら、するするするする出てきて、柏の木の頭の上や手の上、肩やむねにいちめんにとまりました。
 立派な金モールをつけたふくろふの大将が、上手に音もたてないで飛んできて、柏の木大王の前に出ました。そのまつ赤な眼のくまが、じつに奇体に見えました。よほどの年老《としよ》りらしいのでした。
「今晩は、大王どの、また高貴の客人がた、今晩はちやうどわれわれの方でも、飛び方と握《つか》み裂き術との大試験であつたのぢやが、たゞいまやつと終りましたぢや。
 ついてはこれから聯合《れんがふ》で、大乱舞会をはじめてはどうぢやらう。あまりにもたへなるうたのしらべが、われらのまどゐのなかにまで響いて来たによつて、このやうにまかり出ましたのぢや。」
「たへなるうたのしらべだと、畜生。」清作が叫びました。
 柏《かしは》の木大王がきこえないふりをして大きくうなづきました。
「よろしうござる。しごく結構でござらう。いざ、早速とりはじめるといたさうか。」
「されば、」梟《ふくろふ》の大将はみんなの方に向いてまるで黒砂糖のやうな甘つたるい声でうたひました。
「からすかんざゑもんは
 くろいあたまをくうらりくらり、
 とんびとうざゑもんは
 あぶら一升でとうろりとろり、
 そのくらやみはふくろふの
 いさみにいさむものゝふが
 みゝずをつかむときなるぞ
 ねとりを襲ふときなるぞ。」
 ふくろふどもはもうみんなばかのやうになつてどなりました。
「のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎおほん、
 おほん、おほん。」
 かしはの木大王が眉《まゆ》をひそめて云ひました。
「どうもきみたちのうたは下等ぢや。君子のきくべきものではない。」
 ふくろふの大将はへんな顔をしてしまひました。すると赤と白の綬《じゆ》をかけたふくろふの副官が笑つて云ひました。
「まあ、こんやはあんまり怒らないやうにいたしませう。うたもこんどは上等のをやりますから。みんな一しよにをどりませう。さあ木の方も鳥の方も用意いゝか。
 おつきさんおつきさん まんまるまるゝゝん
 おほしさんおほしさん ぴかりぴりるゝん
 かしははかんかの   かんからからゝゝん
 ふくろはのろづき   おつほゝゝゝゝゝん。」
 かしはの木は両手をあげてそりかへつたり、頭や足をまるで天上に投げあげるやうにしたり、一生けん命踊りました。それにあはせてふくろふどもは、さつさつと銀いろのはねを、ひらいたりとぢたりしました。じつにそれがうまく合つたのでした。月の光は真珠のやうに、すこしおぼろになり、柏の木大王もよろこんですぐうたひました。
「雨はざあざあ ざつざ
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