ェらんとした町かどで
  浜のいちばん賑やかなとこはどこですかときいた時
  そつちだらう 向ふには行つたことがないからと
  さう云つたことでもよくわかる
  いまわたくしを親切なよこ目でみて
   (その小さなレンズには
    たしか樺太の白い雲もうつつてゐる)
朝顔よりはむしろ牡丹《ピオネア》のやうにみえる
おほきなはまばらの花だ
まつ赤な朝のはまなすの花です
 ああこれらのするどい花のにほひは
 もうどうしても 妖精のしわざだ
 無数の藍いろの蝶をもたらし
 またちひさな黄金の槍の穂
 軟玉の花瓶や青い簾
それにあんまり雲がひかるので
たのしく激しいめまぐるしさ
   馬のひづめの痕が二つづつ
   ぬれて寂まつた褐砂の上についてゐる
   もちろん馬だけ行つたのではない
   広い荷馬車のわだちは
   こんなに淡いひとつづり
波の来たあとの白い細い線に
小さな蚊が三疋さまよひ
またほのぼのと吹きとばされ
貝殻のいぢらしくも白いかけら
萱草の青い花軸が半分砂に埋もれ
波はよせるし砂を巻くし


白い片岩類の小砂利に倒れ
波できれいにみがかれた
ひときれの貝殻を口に含み
わた
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