射をわたり
店さきにひとつ置かれた
提婆のかめをぬすんだもの
にはかにもその長く黒い脚をやめ
二つの耳に二つの手をあて
電線のオルゴールを聴く
[#地付き](一九二二、三、二)
[#改ページ]

  恋と病熱


けふはぼくのたましひは疾み
烏《からす》さへ正視ができない
 あいつはちやうどいまごろから
 つめたい青銅《ブロンヅ》の病室で
 透明|薔薇《ばら》の火に燃される
ほんたうに けれども妹よ
けふはぼくもあんまりひどいから
やなぎの花もとらない
[#地付き](一九二二、三、二〇)
[#改ページ]

  春と修羅
    (mental sketch modified)


心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲《てんごく》模様
(正午の管楽《くわんがく》よりもしげく
 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾《つばき》し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼路《めぢ》をかぎり
 れいろうの天の海には
  聖玻璃《せいはり》の
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