りる
山鳥ではない
(山鳥ですか? 山で? 夏に?)
あるくのははやい 流れてゐる
オレンヂいろの日光のなかを
雉子はするするながれてゐる
啼いてゐる
それが雉子の声だ
いま見はらかす耕地のはづれ
向ふの青草の高みに四五本乱れて
なんといふ気まぐれなさくらだらう
みんなさくらの幽霊だ
内面はしだれやなぎで
鴾《とき》いろの花をつけてゐる
(空でひとむらの海綿白金《プラチナムスポンヂ》がちぎれる)
それらかゞやく氷片の懸吊《けんてう》をふみ
青らむ天のうつろのなかへ
かたなのやうにつきすすみ
すべて水いろの哀愁を焚《た》き
さびしい反照《はんせう》の偏光《へんくわう》を截れ
いま日を横ぎる黒雲は
侏羅《じゆら》や白堊のまつくらな森林のなか
爬虫《はちゆう》がけはしく歯を鳴らして飛ぶ
その氾濫の水けむりからのぼつたのだ
たれも見てゐないその地質時代の林の底を
水は濁つてどんどんながれた
いまこそおれはさびしくない
たつたひとりで生きて行く
こんなきままなたましひと
たれがいつしよに行けようか
大びらにまつすぐに進んで
それでいけないといふのなら
田舎ふうのダブルカラなど引き裂いてしま
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