いつたほどだ
(ゆきがかたくはなかつたやうだ
なぜならそりはゆきをあげた
たしかに酵母のちんでんを
冴えた気流に吹きあげた)
あのときはきらきらする雪の移動のなかを
ひとはあぶなつかしいセレナーデを口笛に吹き
往つたりきたりなんべんしたかわからない
(四列の茶いろな落葉松《らくえふしよう》)
けれどもあの調子はづれのセレナーデが
風やときどきぱつとたつ雪と
どんなによくつりあつてゐたことか
それは雪の日のアイスクリームとおなじ
(もつともそれなら暖炉《だんろ》もまつ赤《か》だらうし
muscovite も少しそつぽに灼《や》けるだらうし
おれたちには見られないぜい沢《たく》だ)
春のヴアンダイクブラウン
きれいにはたけは耕耘された
雲はけふも白金《はくきん》と白金黒《はくきんこく》
そのまばゆい明暗《めいあん》のなかで
ひばりはしきりに啼いてゐる
(雲の讃歌《さんか》と日の軋《きし》り)
それから眼をまたあげるなら
灰いろなもの走るもの蛇に似たもの 雉子だ
亜鉛鍍金《あえんめつき》の雉子なのだ
あんまり長い尾をひいてうららかに過ぎれば
もう一疋が飛びお
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