気にあたまを下げてゐられると
  おれはまつたくたまらないのだ
  威勢よく桃いろの舌をかみふつと鼻を鳴らせ)
ぜんたい馬の眼のなかには複雑なレンズがあつて
けしきやみんなへんにうるんでいびつにみえる……
……馬車挽きはみんなといつしよに
向ふのどてのかれ草に
腰をおろしてやすんでゐる
三人赤くわらつてこつちをみ
また一人は大股にどてのなかをあるき
なにか忘れものでももつてくるといふ風《ふう》……(蜂函の白ペンキ)
桜の木には天狗巣病《てんぐすびやう》がたくさんある
天狗巣ははやくも青い葉をだし
馬車のラツパがきこえてくれば
ここが一ぺんにスヰツツルになる
遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし
いま向ふの並樹をくらつと青く走つて行つたのは
(騎手はわらひ)赤銅《しやくどう》の人馬《じんば》の徽章だ

   パート四[#ゴシック体]

本部の気取《きど》つた建物が
桜やポプラのこつちに立ち
そのさびしい観測台のうへに
ロビンソン風力計の小さな椀や
ぐらぐらゆれる風信器を
わたくしはもう見出さない
 さつきの光沢消《つやけ》しの立派な馬車は
 いまご
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