の景象ををさめてゐる
わたくしがここを環に掘つてしまふあひだ
その雫が落ちないことをねがふ
なぜならいまこのちひさなアカシヤをとつたあとで
わたくしは鄭重《ていちよう》にかがんでそれに唇をあてる
えりをりのシヤツやぼろぼろの上着をきて
企らむやうに肩をはりながら
そつちをぬすみみてゐれば
ひじやうな悪漢《わるもの》にもみえようが
わたくしはゆるされるとおもふ
なにもかもみんなたよりなく
なにもかもみんなあてにならない
これらげんしやうのせかいのなかで
そのたよりない性《せい》質が
こんなきれいな露になつたり
いぢけたちひさなまゆみの木を
紅《べに》からやさしい月光いろまで
豪奢な織物に染めたりする
そんならもうアカシヤの木もほりとられたし
いまはまんぞくしてたうぐはをおき
わたくしは待つてゐたこひびとにあふやうに
鷹揚《おうやう》にわらつてその木のしたへゆくのだけれども
それはひとつの情炎《じやうえん》だ
もう水いろの過去になつてゐる
[#地付き](一九二三、一〇、一五)
[#改ページ]
一本木野
松がいきなり明るくなつて
のはらがぱつとひらければ
かぎりなくかぎりなくかれく
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