オい蛍光板《けいくわうばん》になつて
いよいよあやしい苹果の匂を発散し
なめらかにつめたい窓硝子さへ越えてくる
青森だからといふのではなく
大てい月がこんなやうな暁ちかく
巻積雲にはひるとき……
     ※[#始め二重パーレン、1−2−54]おいおい あの顔いろは少し青かつたよ※[#終わり二重パーレン、1−2−55]
だまつてゐろ
おれのいもうとの死顔が
まつ青だらうが黒からうが
きさまにどう斯う云はれるか
あいつはどこへ堕ちようと
もう無上道に属してゐる
力にみちてそこを進むものは
どの空間にでも勇んでとびこんで行くのだ
ぢきもう東の鋼もひかる
ほんたうにけふの……きのふのひるまなら
おれたちはあの重い赤いポムプを……
     ※[#始め二重パーレン、1−2−54]もひとつきかせてあげよう
      ね じつさいね
      あのときの眼は白かつたよ
      すぐ瞑りかねてゐたよ※[#終わり二重パーレン、1−2−55]
まだいつてゐるのか
もうぢきよるはあけるのに
すべてあるがごとくにあり
かゞやくごとくにかがやくもの
おまへの武器やあらゆるものは
おまへにくらくおそろしく
まことはたのしくあかるいのだ
     ※[#始め二重パーレン、1−2−54]みんなむかしからのきやうだいなのだから
      けつしてひとりをいのつてはいけない※[#終わり二重パーレン、1−2−55]
ああ わたくしはけつしてさうしませんでした
あいつがなくなつてからあとのよるひる
わたくしはただの一どたりと
あいつだけがいいとこに行けばいいと
さういのりはしなかつたとおもひます
[#地付き](一九二三、八、一)
[#改ページ]

  オホーツク挽歌


海面は朝の炭酸のためにすつかり銹びた
緑青《ろくしやう》のとこもあれば藍銅鉱《アズライト》のとこもある
むかふの波のちゞれたあたりはずゐぶんひどい瑠璃液《るりえき》だ
チモシイの穂がこんなにみじかくなつて
かはるがはるかぜにふかれてゐる
  (それは青いいろのピアノの鍵で
   かはるがはる風に押されてゐる)
あるいはみじかい変種だらう
しづくのなかに朝顔が咲いてゐる
モーニンググローリのそのグローリ
  いまさつきの曠原風の荷馬車がくる
  年老つた白い重挽馬は首を垂れ
  またこの男のひとのよさは
  わたくしがさつきあの
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