がひます。
それは全く熱いくらゐまで冷たく
味のないくらゐまで苦く
青黒さがすきとほるまでかなしいのです。
そこに堕ちた人たちはみな叫びます
わたくしがこの湖に堕ちたのだらうか
堕ちたといふことがあるのかと。
全くさうです、誰がはじめから信じませう。
それでもたうとう信ずるのです。
そして一そうかなしくなるのです。
こんなことを今あなたに云ったのは
あなたが堕ちないためにでなく
堕ちるために又泳ぎ切るためにです。
誰でもみんな見るのですし また
いちばん強い人たちは願ひによって堕ち
次いで人人と一緒に飛騰しますから。
[#地付き](一九二二ヽ五ヽ二一ヽ)
[#改ページ]
厨川停車場
(もうすっかり夕方ですね。)
けむりはビール瓶のかけらなのに、
それらは苹果酒《サイダー》でいっぱいだ。
(ぢゃ、さよなら。)
砂利は北上山地製、
(あ、僕、車の中へマント忘れた。
すっかりはなしこんでゐて。)
(あれは有名な社会主義者だよ。
何回か東京で引っぱられた。)
髪はきれいに分け、
まだはたち前なのに、
三十にも見えるあの老けやうとネクタイの鼠縞。
(えゝと、済みませんがね、
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