〔蒼冷と純黒〕
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)汽《き》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)5[#「5」はローマ数字、1−13−25]
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〔冒頭欠〕
たいエゴイストだ。たゞ神のみ名によるエゴイストだと、君はもう一遍、云って呉れ。さうでなくてさへ、俺の胸は裂けやうとする。
純黒 俺の胸も裂けやうとする。おゝ。町はづれのたそがれの家で、顔のまっ赤な女が、一人で、せわしく飯をかき込んだ。それから、水色の汽《き》車の窓の所で、瘠せた旅人が、青白い苹果にパクと噛みついた。俺は一人になる。君は此処から行かないで呉れ。〔〕
蒼冷 ありがたう。判った。判ってゐるよ。けれども俺は快楽主義者だ。冷たい朝の空気製のビールを考へてゐる。枯草を詰めた木沓《きぐつ》のダンスを懐かしく思ふのだ。〔〕
純黒 俺だって、それは、君に劣らない。あの融け残った、霧の中の青い後光を有った栗の木や、明方《あけがた》の雲に冷たく熟《う》れた木莓や。それでも それでも。俺は豚の脂
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