《な》でるのだ。クウル、クリイル、ケーレと三べんとなへて――。早くしなさい。」
 吉ちやんがそのとほりにしますと、娘はすぐ甦《よみがへ》りました。


    五

 そこで市長は吉《よし》ちやんを大きな広間につれて行つて、沢山な御馳走《ごちさう》をしました。電燈がぴかぴかと宝石にうつつて輝き、オーケストラの音楽が鳴りひゞく。それに綺麗《きれい》に着かざつた紳士や、貴婦人が、よく活動写真で見るやうに、ダンスをしてゐます。吉ちやんは喜んで御馳走をたべながら、それを見たり聞いたりしてゐました。するとふと妙なことを考へ出しました。
 それはこんな綺麗な人達《ひとたち》が、前のやうに、逆さまになつたら、どんなものだらうか。どんな顔をするだらうかといふことでした。よく子供は股《また》の間から、逆さまに世界を見るものです。吉ちやんは股の間からではなく、ちやんとしたまゝ、世界の逆さまになつたのを見たくて仕方がなくなりました。そこで、大黒様には内しよで、そつと、例のおしやもじを出し、今度は前とは反対に、焼け焦げた方を少し向けてみますと、果して考へたとほり、舟がゆれるやうにみんなが一方へ傾きました。

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