とも言ひはしませんよ。」
と、竜の首になつてゐるところが、不意に口をきゝました。
 吉ちやんはびつくりしました。
「おや、不思議な自動車だ、物をいふのねえ。」
「えゝ、この国のものは、何でも物を言ひますよ。」
「さうかね。――うん、僕欲しいね、この自動車が――。それでもオレ・リユク・ウイのおぢいさんが、一番目の鳥居のものは、取つちやいけないつていひつけたから……」
「なあに、あのおぢいさんの言ふことなんか当てになりやしません。早くお取んなさい。まあ乗つて御覧なさい、私《わたし》は一時間に千里走りますよ。」
「千里! 一時間に? うん、ぢや乗つてみよう。でも僕のものにするんぢやないよ。でないとおぢいさんに知れると悪いから。」
「只《ただ》乗るだけですか。」
と、自動車の竜は、ちよつと首を傾げました。
「困りましたなあ。そして乗つてしまつたら、あとは置いてけぼりにされるんですか。」
「だつて外にもつといゝお土産があるから、オレ・リユク・ウイのおぢいさんが、取つちやあいけないと言つたもの。」
「では仕方がありません。あなたが飽《あ》きがくるまでお乗りなさい。どうせ私《わたし》はあなたのおうちまでは行かれないのですから。それに二番目の鳥居へあなたは行くんでせう。二番目の鳥居までは遠いですよ。」
「どのくらゐあるの、遠いつてのは。」
「十里あります。だからお乗りなさい。」
「でも、ハンドルが無いぢやないか。」
「はゝゝ」
と、自動車は笑ひました。
「この国ぢやハンドルなんて、面倒くさい馬鹿げたものは有りません。あなたが乗りさへなされは、自動車はひとりでに、どこへでもあなたのお好きなところへ行きます。飛行機のやうに空にでものぼります。」
 吉ちやんはそのいふとほりに自動車にのりますと、自動車はふはりと宙に浮いて、またゝくうちに、二番目の鳥居の前にとまりました。


    三

 第二の鳥居には吉《よし》ちやんの身のたけほどある大きな人形が、立派な洋服を着て立つてをりました。吉ちやんが自動車から出るのを見ると、
「あゝよく来てくれたね、君の来るのを待つてゐたのだ。」
と、声をかけました。
「おや、君は僕《ぼく》を知つてゐるのかい。そして君は人形ぢやないか。どうしてそんなに物が言へるの。」
「はゝゝ」
と、人形は笑ひました。
「この国ぢや何でも物を言つて、何でもひとりで動くのだよ
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