ばいゝのだ。しかし、鳩は、ちやんと時間が来なけりや、顔を出さないから、おまい、そこの椅子《いす》におとなしく待つておいで。もう十五分ばかりで十一時になるから。こんどはよつぽど長くないてゐるよ。」
一郎もさういはれると、待つ気になつて、ひとまづ踏台からおりて椅子《いす》の上に腰をかけました。けれども、ものゝ一分とはぢつとしてゐません。
「まだかい。」
「まだ……三十秒きりたゝないぢやないか。」
「三十秒てどれだけ。」
「おまいは小さいから、まだよく時間を知らないんだ。おれが教へてやらう。おれの顔を見ておれよ。」
時計は、その眉毛のやうについてゐた針を平がなのくの字の反対の形に、ぴよいと曲げました。
「分つたか。これだよ。」
「分らない。」
「馬鹿《ばか》だな……それで鳩が出たらどうするんだ、おまい。」
「お豆をたべさしてやるんだ。」
「いけない。おまいはどうして、さういたづらなんだらう。」
「でも、ばあやが、鳩ポツポはお豆をたべるんだつていつたよ。だから、ぼく、ポケツトにいり豆をたくさん入れて来たんだ。」
一郎は自分のポケツトをたゝいてみせました。
「それはいけないよ、おれんところの鳩はお豆なんか喰《た》べやしない。」
「ぢや、何を喰べるんだい。」
「さあ、何をたべるだらうね。」
「ぢや、お米をたべるの。」
「いゝえ。」
「ぢや、お魚。」
「いゝえ。」
「ぢや、牛肉。」
「そんなものなんか喰べるものか。」
「ぢや、何をたべるの。」
「いつてきかさうか。」
「うん。」
「あれはお年をたべるの。ちつとづつ、ちつとづつ、おまいのお年も喰《く》ひへらしてゐるの。」
一郎は自分のものは何でもひとにやることがきらひなたちでしたから、お時計の鳩が自分の年を喰べるときくと、たいへんいやな気がして、いきなりステツキで時計の面《つら》をたゝきつけました。ちやうどそのとき十一時で時計の上の戸があくと、いつものとほり鳩が出て、ポウポウと鳴き始めました。
「ばか、僕のお年なんかたべるんぢやない、ばか、ばか。」
一郎はさういひながら、今度はステツキで二つ三つ、つゞけて鳩を叩《たた》きつけました。すると、鳩はなくのをやめて、ポタリと床の上に落ちました。それといつしよに今までチクタクと音させて、動いてゐた時計もその振子をとめてだまつてしまひました。鳩は死に、お時計はこはれたのでした。でも一
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