「どうぞ、お祝ひは、もとのとほり、つゞけておやり下《くだ》さい。私が参つて、まあ一つ、何とかやつてみませうから。」
みんなは、七色の虹猫の勇気があつて、落ちついてゐるのに、たいへん、びつくりしました。けれども、お祝ひが途中で邪魔をされないだらうといふので、よろこんで、そこに集まり、そのときには、もう遠くにはつきり聞える雷様のごろ/\いふ声をきゝながら、その方へ、ずん/\走つて行く、七色の虹猫を見てゐました。
七色の虹猫は、走つて行くと、もうはるか向うに大きな雷様の姿を見つけたのでそこに立ちどまつて、袋を開け、中から一枚の大きなマントを引き出して、それを着、頭の上から、耳まで、すつぽりと頭巾《づきん》をかぶり、そこに坐《すわ》つて何やら深い思案にふけつてゐるやうなふうをしました。
雷様は、このふしぎな姿をしたものが、天の道の中ほどにゐるところまでくると、そこに立ち止まりました。
「おい。きさまは何者だ、又こゝにゐて何をしてゐるんだ。」と、大きな声でどなりました。
「私《わたし》かい。私は有名な魔術師ニヤンプウ子《し》だ。」と、七色の虹猫は、いかめしい、もつたいらしい、作り声で答へました。「私《わたし》のこの袋を見なさい。この中に魔術の種子《たね》がはいつてゐるんだよ。雷さん、わたしは前から、あなたのことを、ちやんと知つてゐるんだよ。あなたはえらい有名な人なんだから。」
雷様はさう言はれると、少し得意になりきげんを直しかけました。けれども、足をいためたので、まだ幾分怒つてゐます。
「ふん、おれは魔術師なんてものを大してえらいとは思つちやゐない。お前一たい、何ができるのだ。」
「私《わたし》はあなたの心の中が分るのだ。」
「ふゝん、さうか。ぢや、今、おれは何を考へてゐるのか、当てゝみなさい」
「そんなことはわけはない。あなたは、自分の足をいためたことを怒つて、あなたの底豆をけとばしたやつを掴《つかま》へてやらうと思つてゐるんぢやないか。」
七色の虹猫は、前に燕《つばめ》から、ちやんとそれを聞いて、知つてゐたのです。
雷様はびつくりしました。
「うん、こいつは驚いた。お前、その術をおれに教へてくれないか。」
「それはむろん教へてあげよう。が、まづ、見こみがあるかないか試験をしてからでないと、いけない。お坐んなさい。」
雷様はそこに坐りました。七色の虹猫はそのまはりを三べん廻《まは》つて、何やら口の中でわけの分らぬことを、ぶつ/\言ひました。
「さあ、言つてごらん。私《わたし》が今何を考へてゐるか。」と、猫はきゝました。
大男の雷様はぼんやりして、猫の顔を見上げてゐました。雷様はあんまり利口ではないのです。
「たぶん、おまいは、おれがこゝにぼんやり坐つてゐるのは、馬鹿《ばか》げてゐると思つてゐるんだらう。」
「えらい。たまげた。それぢや修業して物になる見こみは十分にある。私《わたし》はまだ、こんな利口な弟子を取つたことがない。」
「ぢやも一度やつてみようか。」
雷様は、自分が大へん利口だと思つたのです。
「よろしい。では、私《わたし》は今何を考へてゐるか当てゝごらん。」
雷様は、賢さうなふりをして、その小さな、馬鹿げた目で、ぼんやりと、虹猫の顔を見ました。
「ビフテキと玉葱《たまねぎ》。」と、雷様は突然言ひました。
「これはえらい。」と、猫はわざと驚いたやうにいつて、尻もちをつきました。
「すつかり当つた。どうしてそんなことが分るのだい。」
「いや、なにね、ふつと心に思ひついたゞけさ。」と雷様は、言ひました。
猫はまじめくさつて、
「あなたはその才をこれから育てあげて行かなけりやならんぜ。すばらしいものだ。」
「どうして育てるんだ。」と、雷様はきゝました。人の心をよむといふことは、大へん愉快なものだと思つたのでした。
「なんでもないさ。」と、猫は、もうしめたと思つたので、いよ/\出たら目を言ひました。「家《うち》へ行つて、二三時間、寝てゐなさい、それから、少しお菓子をたべて、又二三時間、寝るんだ。それから目がさめてからお茶を一ぱい、あつくして飲むんだよ。しかし、おとなしく、ぢつとしてゐないと、だめだよ。さうさへすれば、明日の朝、あなたはきつと人の心が、雑作なく読めるやうになるから。」
雷様はすぐにも家《うち》へ走つて行きたいのでした。けれども、さすがに礼儀だけは忘れません。
「大きにありがたう。だがね、ニヤンプウ子先生、これを教へていたゞいたお礼には何を上げませうか。」
七色の虹猫はしばらく考へてゐましたが、
「私《わたし》はちつとばかり、いなづまが欲しいから、ちよつぴりと下さい。」
大男の雷様はポケツトに手を入れて、
「お安いことだ。それならこゝに一たばあるから、これを持つておいで。用があるときには、その
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