虹猫の話
宮原晃一郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)いつの頃《ころ》か

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|疋《ぴき》の猫

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 いつの頃《ころ》か、あるところに一|疋《ぴき》の猫《ねこ》がゐました。この猫はあたりまへの猫とはちがつた猫で、お伽《とぎ》の国から来たものでした。お伽の国の猫は毛色がまつたく別でした。まづその鼻の色は菫《すみれ》の色をしてゐます。それに目玉はあゐ、耳朶《みみたぶ》はうす青、前足はみどり、胴体は黄《きい》、うしろ足は橙色《オレンヂ》で、尾は赤です。ですから、ちやうど、虹《にじ》のやうに七色をしたふしぎな猫でした。
 その虹猫《にじねこ》は、いろ/\と、ふしぎな冒険をしました。次にお話するのはやつぱり、そのうちの一つです。

 ある日、七色の虹猫は日向ぼつこをしてゐました。すると、何だか、たいくつで仕方がなくなりました。といふのは、近頃、お伽の国は天下太平で、何事もなかつたからです。
「どうも、かういつも、あつけらかんとして遊んでばかりゐては、体が悪くなつていけない。」と、猫は考へました。「どれ、一つ、そこいらに出かけて、冒険でもやらうか知ら。」
 そこで、猫は、戸口にはり札をしました。
「二三日、留守をしますから、郵便や小包が、もし留守中にきましたら、どうか、煙突の中に投げこんで置いて下さい。――郵便屋さんへ。」
 それから、ちよつとした荷物をこしらへて、それを尻尾《しつぽ》のさきにつゝかけ、えつちやら、おつちやら、お伽の国境までやつて来ました。すると、ちやうど、そこに雲がむく/\と起つて来ました。
「どれ一つ、雲の人たちのところに、顔出ししてみようかな。」
 猫はひとりごとを言ひながら、雲の土手をのぼり始めました。
 雲の国に住まつてゐる人たちは、たいへん愉快な人たちでした。仕事といつては、べつだん何にもしないのですが、それでも、怠けてゐるからつて、世の中が面白くないわけでもないのです。そして、みんな立派な雲の御殿に住まつてゐますが、御殿は地球から見える方よりも、見えない側がかへつて大へん美しいのです。
 雲の人たちは、とき/″\、一しよに、真珠色の馬車をはしら
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