、土地の人たちには、何にも言ひませんでした。言つたからとて、どうすることもできるわけではなし、たゞ心配をするきりのことですから。
だから、うまい計略を考へるため、少し散歩してくるといつただけで出かけました。
虹猫は身がるに岩の出たけんそ[#「けんそ」に傍点]な道を上《あが》つたり下りたりして、とう/\お城の壁のま下まで来ました。
お城にはすばらしく大きな二つの石の塔が一方の端と、も一方の端とに、一つづゝ立つてゐて、その高い煙突からは、毒々しい、みどりやら、紫やら、黒やらの煙がもく/\とあがつてゐました。
「なるほど、あれは大女が恐ろしい魔法の薬をこしらへてゐるんだな。」と、虹猫はひとりごとを言ひました。
そこで塔の下のところに腰かけて、袋から千里眼のお水のはいつた小さな瓶《びん》を出して、それを目にぬつて、お城の中を見通さうとしました。すると、ふしぎなことには、お城の中にゐるのは大女ではなくつて、長いごましほ鬚《ひげ》の生えた、きたならしい魔法つかひの爺《ぢい》さんであることが分りました。頭には、ばかに高い帽子をかぶり、大きな炉《ゐろり》を前に、広い部屋の中に住まつてゐました。
さま/″\変な、恐ろしい形をしたものが壁にかゝつてゐたり、戸棚《とだな》の中にしまつてあつたりして、床の上にも、テイブルの上にも魔術の本が山のやうにつみ重ねてありました。
魔法つかひは腰に大きな鍵《かぎ》のたばをぶら下げて、火にかけたまつ黒な鍋《なべ》の中に、何やらグチヤ/\煮え立つてゐるものを、しきりにかき廻《まは》してゐました。虹猫がさつき煙突からのぼるのを見た煙はそこから来るのでした。
炉《ゐろり》の火の光りで、鍵につけた札に書いてある字が読めました。
金の箱、銀の箱、宝石の箱、大女の室《へや》、牢屋《らうや》、大女の庭。
そんな札が鍵についてゐましたから、虹猫はよつぽど事情が分つて来たやうに思ひましたが、もつとよく見きはめてやらうと思つたので小さな袋を取上げて、こつそりお城の、別な端に行つて、そこの塔の下に腰をおろしました。そして又れいの千里眼のお水を目にぬりつけました。
今度その目にうつつたのは、子供たちの一ぱい集つてゐる大きな室《へや》でした。
子供たちはいそがしさうに仕事をしてゐました。或者は妙な草をより分けてゐる。或者は重い石で、何だか変なものをつきくだいてゐる。又別なものはえたいの知れない水薬を、この瓶から、あの瓶へとおづ/\した手つきではかつて、一てき/\とうつしてゐます。みんな、あをざめた顔をして疲れきつたやうに見えます。誰《たれ》一人として仕事をしながら笑つたりしやべつたりするものはありません。沈みきつて子供らしくもないのです。
そのとき、ふと戸口が開きました。はいつて来たものがあります。それはほかでもない、大女でした。けれども、虹猫は二度びつくりしました。なぜかつて言へば、大女は、せいはすばらしく高かつたに相違ありません。けれどもその顔は決して恐くはなくつて、かへつて美しく、愛嬌《あいけう》があつて、黄金色《こがねいろ》の髪をしてゐました。
大女がそこにあらはれるが早いか、子供たちはみんな走つてそのそばへ行くのが、ちやうどお母さんでも来たやうに、嬉《うれ》しさうです。
虹猫はもうぐづ/\してはをりません。すぐにマンドリンをとつて、弾き始めました。けれども、魔法つかひに聞かれると悪いと思つて、そんなに音高くは鳴らしません。しかし幸にも風が順に吹いてゐました、それに魔法つかひは、その魔法の仕度に一生けんめいだつたので、そんな音なんか聞えはしませんでした。
けれども、大女はあたりまへの人よりも大きな耳をもつてゐて、よく聞えるものですから、すぐその音を聞きつけました。そして窓から顔を出しました。塔の下には虹猫がマンドリンをかゝへて腰かけてゐますから、何をしてゐるのかときゝました。
「僕《ぼく》は虹猫だよ。どうぞ僕をたすけて、そこに上らしてくれたまへ。」と、虹猫は言ひました。
大女はリボンの腰帯をといて、その一ばん下の端にハンケチを入れて置いた袋をゆはへつけて下ろしてやりました。大女の持ちものですから、その袋は虹猫がはいつて、そのうへに又宝の袋やらマンドリンやらを入れても十分あまりがあるほど大きかつたのです。
大女は虹猫を窓のふちまで引き上げて、中に入れて、何をしてゐるのか、どうしたのかときゝました。虹猫をたゞものでないと見てとつたからです。
虹猫が、ユタカの国で聞いたことを話しますと、大女も自分の身の上話を致しました。
悪い魔法つかひが来て、大女がまだほんの赤ん坊であつたとき、盗み出して、このお城につれて来て中に閉ぢこめ、魔法にかけて、ありとあらゆる悪いことをしてゐたのでした。
「土地の人
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング