》のある猫ですから、かう聞かれると、すぐいゝ考へがうかびました。
「それはどうも、お困りだらうね。」と、いつて、長いひげを二三度ひねりました。「むろんぼくは、喜んで、きみのお助けをしよう。もつとも、なか/\面倒なことだがね。」
「さうとも、なか/\面倒なので、ぼくはもう弱つてるんだ。」
「一たい、いつ頃までに、その材料が手にはいればいゝのかね。」
「どんなに遅くとも、今晩までに手に入らなけりやいけないのだ。」
「よし。できるだけのことを、やつてみよう。」と、虹猫は言ひました。「ぼくに二つの考へがある。まあ、そんなに心配し給《たま》ふな。今夜、こゝへ来給《きたま》へ。ぼくがちやんとしておくから。」
木精の頭《かしら》は、これですつかり安心して、帰りました。非常に火急な場合に、何か助けになることを考へてくれるといふのですから、虹猫が、大へんかしこい、深切なひとのやうに思はれました。
きつちり十二時に、虹猫は、その青黒い目玉をいき/\と、かゞやかしながら、木精の頭に会ひました。
「ぼく、二三ヶ所、心当りをさぐつてみたが、」と、虹猫はいひました。「もつとしつかり確かめなけりやいけないんだ。まあ、腰をかけて、ゆつくりと話すことにしよう。」
木精の頭はそは/\しながらも、いはれるとほりに腰をかけて、ねつ心に、虹猫の話すのを待ちました。が、いよ/\、望みが多くなつてきたと思つて、喜びました。
「君に一つ、きくことがある。」と、虹猫は申しました。「馬追《うまお》ひ谷《だに》のやぶ薔薇は大へんいぢ悪だつてことだが、ほんたうだらうか。」
「ほんたうとも。ほんたうとも。だれだつてあいつの傍《そば》に寄れはしないよ。ひどい奴さ。やぶ薔薇だつて中にはなか/\善《い》いのもゐる。けれども、あいつはたまらない。ちつとでも、すきがありや、すぐ引つ掻《か》くんだからね。それや悪いやつさ。」
「ぢや、も一つきくが」と、虹猫は言葉をつゞけました。「あの薔薇は、自分が、せいが低くつて、天までとゞくことができないので、それを大へん口惜しがつて、ひとをねたんでゐるつてことだが、ほんたうかい。」
「ほんたうだよ。いつもぶつ/\小言をいつたり、どなりちらしたり、近じよ近ぺん大迷惑なんだ。」
「ふむ。」といつて、虹猫は腕をくみ、しばらく何やら思案してゐました。
「やぶ薔薇の花びらで、妖精の靴がつくれるだらうか
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