もうせん苔《ごけ》、水の泡《あわ》、草の葉の筋など、そのほか、数かぎりのない材料が使はれるのです。

 さて、この着物ができあがると、鳥がそれをもつて、妖精のところへ行き、代りの註文を受取つてくるのです。
 ごくとくべつの場合には、註文《ちゆうもん》をした妖精が寸法を合はせに来たり、服地やら、スタイルやらをえらびに、自分から出かけてくることもありますが、そんなことは、さう、たび/\ではありません。なぜかといふに、木精の縫つた服は、よくからだに合ひスタイルも見事だからです。

 虹猫《にじねこ》は木精の国に行くことが、大へん好きでした。
 虹猫は、木精の国では、美しい、ぶな[#「ぶな」に傍点]の木に住まつてゐました。朝日が、木の葉をとほして、射すときには、その小さなお家《うち》は、なんともいへない、可愛らしい薔薇色《ばらいろ》にそまつて、それはきれいに見えるのです。毎朝、小さな鳥が声をそろへて、歌をうたつて、虹猫に聞かせ、又夕方になると、いつも子守歌をうたつて、すや/\ねむらせてくれます。
 小さな鳥どもは、虹猫を、大へん立派な、きれいな人だと思つてゐました。そしてそれはじつさいのことです。

 虹猫が、二三日、木精の国に滞在してゐるうちに、或日、朝早く、木精の頭《かしら》が面会に来ました。それは大へんにこまつたことができたから、相談してみようと思つたのです。
 困つたことゝは、ほかでもありません。妖精の国の女王様から、薔薇色をした短靴《たんぐつ》が幾ダースも幾ダースも、註文がありました。女王様は、こんどの宴会に、自分の御殿にゐるものには、みんなお揃《そろ》ひで、薔薇色の短靴をはかせようと、思召《おぼしめ》したのです。それだのに、その宴会は、もうほんの三日の後に、迫つてゐました。
「やつてやれないことはないけれど。」と、木精の頭は言ひました。「材料をどうしたものだらうか。君も知つてゐるとほり、薔薇はまだ出ないし、石竹《せきちく》は近頃《ちかごろ》、むやみに註文があつたんで、すつかり使ひつくしてしまつたんだ。それに似寄りの染粉も、みんなになつてしまつたのだ。もう、薔薇色の革はちつとも持合せがないのに、すぐ取りかゝらなけりやならんのだ。そいつを造らせるうちには、日限が切れつちまふ。女王様のおきげんをそこねるのは恐しい、一たい、どうしたらいゝだらう。」

 虹猫は智慧《ちゑ
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