《わたしども》が珊瑚といつて珍重するのはこの動物の骨なのです。
 今太郎君は真珠貝をさがすことも、お父さんとはかなり遠く離れてしまつたことも忘れて、そこに立つてゐるうち、とある大きな岩穴の前に、沢山の蟹《かに》の殻が落ちてゐるのを見つけました。
「おや/\どうしたんだらう。蟹が戦争でもしたのか、こんなに沢山死んでゐる」
 今太郎君が不審をいだいて、その方へもつと近づいて行きかけたとき、忽《たちま》ち大きな穴の中から、真つ黒な雲がもく/\と湧出して、あたりは夜のやうに暗くなりました。


    三

「あツ、しまつた!」
 今太郎《いまたらう》君は我知らず、かう叫びました。それは、かね/″\潜水夫たちに聞いてゐた、海の底に住むいろ/\の怪物のうちで、一番|恐《こわ》がられてゐる大蛸《おほだこ》の仕業と分つたからです。沢山の蟹《かに》の殻は、そ奴《やつ》が今まで餌食《ゑじき》にしてゐたものだつたのです。
 蛸は敵にあつてにげるときや、大きな獲物を襲ふときには、口から墨汁《すみ》をふいて、あたりを真つ暗にする習慣をもつてゐます。つまり、我々が戦争をするとき、煙幕を張ると同じわけです。ですか
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