冒険談を聞くことにしませう。

 今太郎君が十五のときでした。
 ある日、お父さんの採貝艇《さいばいてい》(潜水夫をのせて真珠貝をとりにゆく船)に乗り、沖へ出て、空気を潜水夫へ送るポンプをせつせと動かしてゐると、すぐ船のそばへ、チヤブ台ほどの大きさの海亀が一匹浮き上りました。船の者共は面白半分|鉤《かぎ》をかけて、引上げてしまひました。
「こいつの肉はうまいから、今夜一ぱい飲めるぞ」と、水夫の一人がにこにこして言ひました。
「今太郎さん」と、も一人の水夫はポンプを動かしながら言ひました。「すばらしく、おいしいスープを拵《こしら》へて、君にも、うんと喰《た》べさしてあげるよ」
 今太郎君は船板の上に、仰向《あふむ》けにひつくりかへつてゐる亀を、珍しさうに見てゐましたが、これが今夜喰べられてしまふのかと思ふと、何だかかはいさうなやうな気がしました。そして浦島太郎の昔話を思出しました。
 そのうち、水底にもぐつてゐたお父さんが真珠貝をとつて、上《あが》つて来ました。潜水|兜《かぶと》をまづぬぐと、すぐ大きな亀に目をつけました。
「フン、えらいものを捕つたね。どうするんだい」と、お父さんがきゝ
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