悪魔もぼんやりとして、そこに立つたきり、呆《あき》れてみてゐましたが、たちまち何やら呪文《じゆもん》をとなへると、大きな魚の形になつて、ざあ/\浪《なみ》を立てながら、その広い川をまたたくうちに泳ぎきつて、向うへ渡つてしまひました。
もうお寺はすぐ前に見えてをります。豆小僧は、一生懸命、ちよこ/\と走りますが、何しろ、小股《こまた》で走るので、はかどりません。ぐづ/\してゐるうち、大川を渡つた悪魔が直《す》ぐ追ひついて、もう二足三足で、襟《えり》がみをつかまうとするまでに近く、迫りました。
豆小僧は今度こそと、四枚目の大般若のお守札をほうりますと、土の中からポツと火が出て、そこらぢう一面に焔《ほのお》となりました。
悪魔は不意を打たれて、手やら足やら顔やら焼傷《やけど》をしました。けれども、そんなことには閉口しません。何やら口で呪文をとなへますと、さすがに燃えさかつた火も見る/\消えて、あとには、只《ただ》炭と灰とだけが残りました。
「こんどは逃がさんぞ!」
悪魔は大風の吹くやうな凄《すご》い音を出して豆小僧を追ひかけました。
「和尚さん助けて、あれ/\、悪魔が来ます、追つかけ
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