絵にかいてあるやうな、長い、だぶ/\の着物を男も女も着てをりますから、なか/\思ふやうに活溌《くわつぱつ》な働きが出来ません。そのうへに今のやうにちやんと普段から支度がとゝのへてありませんから、たゞ恐《こは》がつて、慌《あわ》ててばかりゐて、一向だめでした。宮城にゐる人達でも、下等の者は、自分達だけさつさと馬を曳《ひ》き出して、逃げ出し、そして市中に出て、自分の行く先にちつとでも邪魔になるものは皆腰にさした太刀でスパリ/\と打ち切つて行きます。で、その騒ぎといつたら大変なものでした。
 そのとき一人の皇子がどうしたものでしたか、お傍《そば》の者と別れて、独りで逃げ迷つていらつしやいました。風に煽《あふ》られた火は大蛇《だいじや》の舌のやうにペロリ/\とお軒先を甜《な》めてまゐります。瓦《かはら》が焼け落ちて、グワラ/\と凄《すご》い音を立てます。逃げ迷ふ女子供の泣き喚《わめ》く声やら、馳《ま》せまはる男達の足音、叫び声などワヤ/\ガヤ/\聞えて物凄《ものすご》い有様でした。そのうちに火はます/\勢が強くなつて、パリ/\バン/\と花火をあげてゐるやうな音をさして皇子の立つていらつしやる御
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