をするのだらうと、不思議がつて見てをりますと、大蛇はそこにあつたものを何やら二口三口たべて谷へ下りて行きました。神主さんがそつと覗《のぞ》いてみると、大蛇は谷川に下りて行つて、水を飲んでゐるのでした。水を飲み終ると、大蛇は向うの岸に上り、大きな松樹《まつのき》に身を巻きつけ、一つじつと締めると、見る見るうちにお腹《なか》はげつそりと小さくなつて、勢よくどこかへ行つてしまひました。
 神主さんは岩の陰を出て、蛇《へび》が何やら喰べたところへ行つてみますと、そこには美しい蛇いちごが、もう霜にしなびて残つてゐました。神主さんは「しめた。」と、手を拍《う》つて悦《よろこ》びました。それはかういふ話を思ひ出したからでした――
「蛇が腹一ぱいに物を食べると、蛇いちごを食べ、水を飲んで、立木に巻きつく。さうするとお腹《なか》の物はすつかりと消化《こな》れてしまふ。けれども亀《かめ》を呑《の》んだときだけにはそれがきかないさうだ。どういふわけかといふと、亀は堅い甲羅《かふら》を着てゐるから、蛇いちごもきかない。亀は呑まれる直《す》ぐ、首も手足もちゞこめてゐるが、蛇が水を呑むと、元気が出て、お腹《なか》の中で、首や手足を出して荒れまはる。蛇は苦しいから、立木にまきついて締めると、亀はその手足の爪《つめ》で、蛇のお腹《なか》をガサ/\引掻《ひつか》いて、とう/\その腹を裂いて、出てしまふ。」といふ話でした。
「しめた/\。」と、も一度神主さんは叫びました――
「この蛇いちごをもつて行かう。そして祝詞を上げてゐるうちにそれをたべては、水を飲んでをらう。さうしたら直ぐお腹があの蛇のやうにすいて、どこへいつてもありつたけの御馳走がたべられる。」
 神主さんはそこらぢうを捜して、沢山蛇いちごを集めて袂《たもと》に入れて、いそ/\と氏子の家へ行きました。

 さて神主さんは神前に出て、祝詞をあげながら、
「かけまくも畏《かしこ》き……ムニヤ/\、大神《おほがみ》の大前《おほまへ》にムニヤ/\……。」と、ちつとづゝ蛇いちごをたべては、お水をいたゞいてゐますと成程どうも不思議にお腹《なか》がすいて来ます。そして祝詞が終る頃《ころ》にはもう飢《ひも》じくて/\気が遠くなる程になるので、出された御馳走を、まるで餓鬼のやうにがつ/\がぶ/\と喰べたり、飲んだりして、
「マアこれでよろしい。」と、ほく/\悦
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