、あのね。をんどりが見えなくなつたよ。そこらの藪《やぶ》にでも入つてゐないか見ておいで。悪い狐《きつね》が出るけれど、まさか昼だから、狐がとつたんでもあるまい。」
 幸坊はほんとにびつくりしました。あのうつくしい、かはいゝをんどりがゐなくなつたのか。それは大へんなことだ。どうしてもさがし出して来なければならないと思つて、肩からかばん[#「かばん」に傍点]をおろすとすぐ一本の竹切れをとつて、出かけようとしますと、どこからか黒《くろ》が出て来て、にやあんと鳴きながら、あとをついて来ます。
「黒や、いけないよ。おかへり。ぼくはね、をんどりのとうと[#「とうと」に傍点]をさがしにいくんだからね。おまいが犬だとつれていつて、さがす手つだひをさせるんだけれど、猫《ねこ》ぢやだめだ。」
 幸坊はしきりに黒を追ひかへさうとしますけれど黒はなか/\かへりません。仕方がないから、ほうつておくと、黒はさつさと先にいつて、畑の向うにある大きな森の中にはいつてしまひました。幸坊はをんどりばかりでなく、黒までゐなくしては大へんだと思つて、
「黒や、黒や。」と大きな声を出してよびますけれどどこへ行つたものやら、わか
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