ました。」
 母と子の鶉は、それから粟《あは》の穂や、虫などの拾つたのを喰べましたが、これまでにそれ程おいしく喰べたことはないと思ひました。
 さて翌日から、又前のとほり母の鶉は近いところを、子の鶉は遠いところを、いろ/\餌《ゑ》をあさつて歩きました。といふのは、もう冬が近いのに、王様につかまつたりなんかして、そのしたくが、まださつぱり出来てゐなかつたのでした。で、もう母も子も毎日/\、朝から晩まで真黒《まつくろ》になつて働いてをりました。それだものですから、つい忘れるともなく王様へのお約束も忘れてをりました。
 すると或日《あるひ》、藪《やぶ》の中で、お喋《しやべ》りの、みそさゞいが子鶉を呼びかけました。
「おいうづ[#「うづ」に傍点]公。お前は嘘《うそ》つきだな。」
 子鶉は、あんまりだしぬけですから少しも様子が分りません。ですから丸い眼《め》をいよ/\丸くし、尖《とが》つた嘴《くちばし》をいよ/\尖《と》んがらかして呶鳴《どな》り返しました。
「なんだと、このおしやべりもの奴《め》。俺《おれ》を嘘つきだなんて、一たい貴様、何だつてそんな悪口をいふんだ? そんなことをいふわけを言へ、もしわけを言へなかつたら、貴様の片羽へし折つて、鼠《ねずみ》の餌食《ゑじき》にしてくれるから。」
 みそさゞいは嘲笑《あざわら》ひました。
「わけを言へないで、どうするものか? お前は王様に何とお約束申し上げたのだ?」
「ウーン、それは……。」
 子の鶉は二の句がつげません。みそさゞいは、それ見ろといふやうな顔をして……。
「フン、それで嘘つきでないといふのか? お前は王様がこの間から、重い疱瘡《はうさう》にかゝつていらつしやるのを知らないか? あの菊石面《あばたづら》の赤い疱瘡神は、王様のお体に、その一万もある針を、すつかりさしこんで、毒を入れてゐる。もう王様のお命は、いつなくなるか知れないのだ。そこでお側《そば》にゐるものが、賢い学者に聞いてみると、鶉の声をお聞きになれば、疱瘡の神が驚いて遁《に》げるといふことで、いろ/\の鶉を集めて、鳴かせるが、疱瘡の神はびくともしないのだ。王様は――私《わたし》が放してやつたあの鶉の威勢のいゝ声を聞けば、きつと私の病はなほるとおつしやる。それだのにお前は自分のことばかりして、王様にお約束申したこともやらなけりや、お見舞にすら上《あが》らないぢ
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