い勇気だなア!」と、さすがに勇敢なキクッタは今死ぬ目にあつたことなどケロリと忘れたやうにニコ/\して言ひました。
「さうだよ。穴打をしたんだ。然し、君はなんだつて、僕《ぼく》のあとをつけて来たんだい。また僕の功名を横取りしようつていふのかい。だが、今度はだめだよ」と、チャラピタは怒つたやうに言ひました。
「いや、もう決して、そんなことはない。熊捕り競争では、僕すつかり負けた。僕はまた生命《いのち》を君に助けて貰《もら》つた。僕はもうその恩を返へす見込みはない。だから鉄砲も酋長《オツテナ》の候補者も、君のものだ、僕がしたことはみないけなかつた。僕はすつかり君に降参する。どうか、ゆるしてくれたまへ」
 チャラピタは正直で、優しい気質《きだて》の人でした。小さいときから、親しい友達のキクッタが余りずるいので、一時は怒つたのでしたが、今から詫《わ》びをいはれると、すつかり心がとけてしまひました。
「さうか。君が、さういふ気持なら、僕、もう何んとも思はない。僕たちはまた元のとほりの親友にならう」
 そこで二人はアイヌの習慣どほり、柳の枝をけづつて御幣《イナオ》をつくり、それを神様《カムイ》にそな
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