耳がつぶれるやうな、ひどい音がしましたが、それと同時に傷をうけた熊の猛烈にうなる声がしました。チャラピタはぴつたり地面に顔を押し付けて、平ぺつたくなつてゐると、熊は唸《うな》りながら、非常な勢ひで、チャラピタの身体《からだ》を踏み越えて、穴の外へ走つて出ました。そして雪の上をウオー/\ワア/\と吼《ほ》えたり唸つたりして、狂ひまはつてゐます。つまり自分を傷つけた敵が外にゐると思つて、そいつを掴殺《つかみころ》してやらうと怒り猛《たけ》つてゐるのでした。
 けれどもチャラピタは穴の中に隠《か》くれたまま、その姿を出さないので、熊は張合ひがぬけて、すご/\穴の中に戻《もど》り、出て往つたときと同じにチャラピタの背を踏通つて、奥に往《ゆ》き、しきりと傷をなめてゐる様子でした、チャラピタはそれを見て、またもや一発|喰《く》はせました。熊は
「今度こそは、ゆるさないぞ」と、いふやうに、猛々しく吼えながら、またもや穴の外へ走つて出ましたが、やつぱり誰《だれ》もゐないので、すご/\と引返へして来ました。
 三度目に、熊はとびだすことは、飛び出したけれど、もう二発も弾丸《たま》を喰らつてゐるので、大ぶよわつてゐるらしいので、チャラピタは外へ出て、止《とど》めを刺してやらうと思ひ、銃にたま[#「たま」に傍点]をこめると、そのあとをおつて、穴の口まではひ出しました。
 丁度、そのときでした。穴の外で、ドーンと銃声がひゞき、つゞいて熊がすさまじく吼える声が聞えたので、急いで、穴を出てみると、手負ひの熊は死物ぐるひになつて、今一人の人をめがけて、とびつく瞬間でしたから、チャラピタは碌《ろく》に狙ひをつけるひまもなく、ドーンと一発はなすと、うまく熊の背骨に中《あた》りましたから、ひとつたまりもなく、熊はその場に仆《たふ》れました。
「やア、チャラピタぢやないか、君は?」
 そのとき、向ふの人が声をかけて、頭布《づきん》をとると、それはキクッタであることが分りました。
 キクッタは偶然、チャラピタがはいつてゐる穴の口へ来て、その模様をしらべてゐるところに、突然銃声が聞えて、大熊がとびだしたので、一発打つたのですが、すつかり慌《あわ》ててゐたので、中らず、今度はもう身をかはす間もなく、危いところを、またもやチャラピタに救はれたのでした。
「あゝ、チャラピタ、君だつたか、穴打ちをやつてたのは、えら
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