ゐるつて言つたらう。そしたら此《こ》の上の方の傷口から出たのと同じ形ぢやないか。僕のは丸い弾丸だから、この下の方のと同じだ。そしたら、僕の弾丸こそ心臓に中つてゐるんぢやないか」
 チャラピタは穏かながら、自信をもつて、さう言ひました。けれども、キクッタはどうしても承知しません。とう/\自分の弾丸が、熊を仆したのだと強情を張りとほしてしまひました。


    五

 おとなしいチャラピタでしたが、これには少からず腹を立てました。でもその日はキクッタのむりな言ひ分を通しましたが、それからは、また元のとほり、ひとりで狩に出て、せつせと熊《くま》を狩り集めてゐました。
 キクッタの方では、相当な大熊を自分がまつさきに打ちとつたことにしましたので、まづ一安心しましたが、その後チャラピタにもつと大きなのを捕られたんでは大へんですから、ひとりで歩いて、もつと大きな熊をとらうとしましたが、さつぱりとれないのに、チャラピタはさう大きくはないけれど運よくもう三|疋《びき》もとつてゐるので、やきもきして何んとか、かんとか、うまいことを言つて、チャラピタといつしよに往《い》かうとしましたが、チャラピタはキクッタのずるいのにはこりてゐますから、相手になりません。
 そのうち、冬になつて、雪がまつ白に降りつもりました。斯《か》うなると、熊は大てい、自分の穴の中へ引つ込んで、飲まず、食はず、長いこと眠つて、来年の春が来るのを待つてゐるものです。アイヌはこのときをねらつて、穴打ちといふ頗《すこぶ》る面白い、けれども危険至極な熊狩をするのです。
 チャラピタは少年のくせに、大胆にもこの穴打ちをやらうと思つて、熊のはいつてゐさうな穴をさがして歩きました。アイヌの目で見れば、熊の入つてゐる穴と、ゐない穴とはすぐ分るのです。
「ゐるぞ、巨《でか》いやつが!」
 一つの大きな熊の穴を見付けたチャラピタは、身につけてゐた一切のものをそこへ下ろし、只《ただ》鉄砲と弾薬とだけをもつて、四つんばひに、穴の中へ匐《は》ひ込んで行きました。じつに大胆不敵の少年ではありませんか。
 奥深くはひこんで行くと、やがて、向ふの闇《やみ》に、青く、きら/\と光るものがありました。いふまでもなく熊の目玉です。
 チャラピタは腹をぴつたりと土につけ、そのきら/\光つたものを狙《ねら》つて一発打ちました。狭い穴の中ですから、ガーンと
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