の巣のやうに穴をあけた。もしその一発でもが、積んでゐる水雷か、砲弾にか当らうものなら!
そのうち、だん/\時が経《た》つにつれて、海図室をやられる。操舵機《さうだき》をこはされる。おまけに大事な前部の十二サンチ砲は敵弾を受け、砲身が曲つたり砲架をいためられたりして、砲員も死傷して、とう/\二門とも発砲が出来なくなつた。後部の二門もこの時、別な理由でだめになつた。
「弾薬がつきました。監督大尉!」
後部の掌砲兵《しやうはうちやう》が悲痛の声を絞つて、伝声管《ボーイス・チユーブ》に口を寄せて叫んだ。けれども伝声管《ボーイス・チユーブ》はもう敵弾にいたんでゐるので、船橋《ブリツヂ》へは通じない。よし通じても、監督の堀大尉は戦死してゐた。砲のことは素人の船長には分らない。いや、その船長も既に重傷を負うて、船の指揮は今一等運転士がつかさどつてゐる。
「せめてもう一発でも――畜生もう一発あれば、あの艦橋《ブリツヂ》にドカンと打《ぶ》つくらはしてやるんだが! ちえツ、残念だ!」
掌砲長が砲の把手《ハンドル》を握りしめて、口惜しさうに敵を睨《にら》んで叫ぶのを、嘲笑《あざわら》つてでもゐるやうに、敵弾はぶん/\飛んで来て、ところきらはず命中するそれだのに、こちらからは答へる弾薬が尽きてしまつたのだ。いよいよ自ら爆沈すべき最後の時がせまつて来た。
二
非壮な瞬間だ。と、突然、後部の巻揚機《ウインチ》ががら/\と凄《すさま》じい響を出して、その五六本の鋼条《ワイヤー》の先に吊《つ》るした鈎《かぎ》づきの滑車が弾薬庫にする/\と滑りこんだ。それを真つ先に見つけたのは掌砲長《しやうはうちやう》だつた。
「やア有難い。えらいぞ下村《しもむら》! 積荷の弾薬に気がついたのか。しつかりやつてくれ!」
掌砲長は、下村が弾薬を自分の方へ廻《まは》してくれるものと思つたので、躍り上つて悦《よろこ》んだ。しかし巻揚機《ウインチ》の滑車の鈎について上つて来たのは弾薬箱ではなくて、二十一インチの素晴しく大きな魚雷で、その上に中原《なかはら》が跨《また》がつてゐた。
「何だ、馬鹿《ばか》々々しい。水雷と弾薬とを間違へる奴《やつ》があるか、あわて者、しつかりしろ!」
掌砲長はぷり/\して呶鳴《どな》つたが、あたりが騒がしいので、向ふまで聞えなかつたのか、下村も中原も、そつちを見向きさへ
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